読切小説
「インターホン ウエイター」
私はかれこれ3時間はこうして玄関の前でドアノブを握って待機している。iPodがなかったらできなかったことだろう。これも文明のおかげだ。近頃、有効なダイエット法としてテレビで紹介されたのかと思ってしまうほどピンポンダッシュによくあう。今日こそ犯人を捕まえてやろうとこうして、隠れ続けている。その間ポケットにいれてる携帯電話が一度も震えなかったのは、私の暇さを表しているようで少し寂しかったけれど。
シャッフルで気に食わない曲がかかった調度その時、インターホンの音が狭い部屋中に鳴り響いた。
「何!?」多分ピンポンの余韻も鳴り止む前にドアを開けた。ざまぁ見ろ。被害者なめるなよ。
「……すいません。宅配便です…」
こんな日に限ってロクに友達のいない上京1ヶ月目の私に配達がくるなんて。私の顔は赤くなり、郵便局の人も申し訳なさ気な顔をしていた。母からだ。どうせ作りすぎた苦い野菜を送ってきたんだ。配達員の人は苦笑いしてそそくさと帰っていった。私は早速母に電話する。
「ちょっとお母さん!?今私かなり恥ずかしい思いしたんだけど!」
「現在おかけになった電話番号は――――」
そうだ、両親共々携帯電話会社変えたんだった。私はなんで教えてもらってないのだろう。
そしてまた一時間たった。買ったばかりのiPodにはまだあまり曲が入ってなくて二週目に入ってしまった。二週目の最初にまた気に食わない曲がかかって舌打ちした時、しばらくぶりに携帯電話が鳴った。見知らぬ電話番号。母からからだろう。
「ねぇ。何で私に番号教えてくれてなかったの!?」
「え…?何でって、ごめん。これ俺の番号、登録しといてな…」
俺?違った。母と信じて疑わずにいたら、違った。何でこんなときに限って…。
「ごめん。勘違い。お母さんだと思ったんです。すいません。あなた誰ですか?」
「マジかよー。お母さんて。お母さんて。小学生じゃあるまいし」大笑いされた。そりゃそうかな。私でも多分そうだろう。
「あのー。誰ですかぁ?」二度聞くのが申し訳なくて声がだんだん小さくなっていって、今聞いてる気に食わない曲と一緒にフェードアウトしてしまった。
「あー!俺!俺!」
「俺俺詐欺?」
「違う。違う。そんな時代遅れな…。俺だよ。おんなじ部活の佐武。明日試合あるだろ?その連絡。やっぱ面白いなぁお前」俺俺詐欺は時代遅れだったと知って少しショックを受けた。
「そうかなぁ。そして明日試合だったんだね」
「知らなかったのかよ!一年生最初の試合ってみんな張り切ってたぜ。明日集合場所は―――」
その時、家の外を走る音とインターホンの音が鳴り響いた。
「佐武君。ごめん。私いかなきゃ」
「は?おい。俺まだちょっと…?」
「ごめんね、また後で」私はそういって電話を切り玄関を飛び出した。
携帯電話の向こうで、佐武君が頑張れと言ってくれてる気がした。
そうして私は、まさか追いかけてくるとは思ってなかっただろう犯人を追いかけ、走る。


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